『利き耳』 の解説

 
 

 『利き耳』というと一般的にはなじみの薄い概念ですが,

 
 

EAR-PREFERENCE あるいは EAREDNESS という概念で以前から知られています.

 
 

しかし,従来 『利き耳』 を調べるのに用いてきた「耳をそばだてる」,「壁にあてる耳」などの行動についての質問は分かりにくく,「イヤホンを聞く」,「機械時計のチクタク音を聞く」なども最近は使う機会が少なくなっています.

そこで,誰もが日常的に使っていて,自分の行動を意識しやすい電話に注目したわけです.

 
 

 しかし,電話を聞く耳によって 『利き耳』 を判定することについては,しばしば以下のような反論が寄せられます.

 『電話のコードが左側についているから』,左耳に受話器を当てる のである。.

 『電話を聞きながらメモをとる時,右手を自由にしたいので,』左耳に受話器を当てる.

 → したがって,利き耳は 存せず、利き手などの条件に依存する

 
 

 このような反論は,多くの場合,どちらの耳でも聞くことができる人 (約 80 %) から寄せられますが,困ったことに,このような人が,右耳(あるいは左耳)でなければ電話を聞けない人 (約 20 %) に比べ,多数派なのです.

 
 

しかし,冒頭でのべた「肩で電話をはさむ」行動は,どうしても右耳でないと聞きにくい人がメモを取ろうとして,仕方なく不自然な姿勢をしているのです.

 
 

また,「電話のコードがぐるぐる巻きになる」理由を説明すると...

どうしても右耳でないと電話を聞けない人が,

→ 受話器を左手で取り (コードが左側についているので)

→ 受話器を右手に持ち替えて,右耳に当てる (ここで半回転)

→ 受話器を右手で戻す (ここでさらに半回転)

結局,電話の受話器を取ってから戻すまでに1回転コードが捻れる 。

 
 

このようなプロセスが数回繰り返されると,電話のコードはどうしようもなく捻れてしまうのです (わかりにくければ,実際に試してみて下さい).  

 
 

このような例を持ち出せば,想像力のある人ならば,たいては納得してくれるのですが,多数派の両耳利きで,かつ自分の感覚に沿ってしか理解できないタイプの人も多いのです.そこで,今回のような質問紙でデータをたくさん集めて,分析し,実証しなければならなくなる訳です.

 
 

今回の調査は,前回の 1986 年の調査から 10 年以上が経過し,その間に,コードレス電話・携帯電話・PHS などが爆発的に普及した時点で行われることになります.したがって,コードの影響のない状況で,より明確な分析を行えるのではないかと期待しています. (1998.Aug.)

 
 

References

  1. 椎原ら: 利き耳の分析 (I) −電話の受話器をあてる耳の調査−. 群馬大学医短紀要, 7, 151-158, 1986.

  2. Seeman and Surwillo: Ear preference in telephone listening. Perceptual and Motor Skills, 65, 803-809, 1987.